みなさんこんにちは! 旅行観光情報サイト「旅狼どっとこむ」の旅狼かいとです!
今回は、「導師様」を意味する「グル・リンポチェ」の別名でも知られる「パドマサンバヴァ」についてご紹介します。8世紀、チベットに本格的に密教をもたらした最初の人物とされ、「チベット密教の祖」として今なお崇敬を集めています。鋭い眉毛と目つき、口髭と顎髭を生やしており、非常に力強い印象を感じる顔をしていることがほとんどです。また、手には金剛杵(バジュラ)を持ち、悪魔の頭がのっている槍を備えているのも特徴です。
そんなパドマサンバヴァには、誕生に関わる伝説や、魔術的な神通力を使ったというエピソード、予言や教えについての言い伝えが残されています。さらには、「グル・ツェンゲ」と呼ばれるパドマサンバヴァがもつ八つの変化した姿について解説もしていきます。
チベット密教の文化と信仰が今なお色濃く残るネパールやブータン、インドのラダックなどへご旅行を計画という方はもちろん、インドにおける偉人を知りたいという方はぜひ参考にしてみてくださいね!
※ 「リンポチェ」は、チベット密教における高僧、あるいは、傑出した仏道修行者に与えられる尊称です。
誕生伝説と生涯
インドのウッディヤーナに生まれ、ティソン・デツェン王時代にチベットに招かれ、土着の神々を次々と魔術的な力で調伏し、多くの密教聖典を伝えたとされる密教行者パドマサンバヴァ。史実として存在した人物とされていますが、伝説的なエピソードが多く、どこまでが真実かは未だ謎に包まれています。
そんなパドマサンバヴァについて語られている伝説と生涯の一端を知ることができるエピソードを、まずはご紹介します。
誕生の伝説
昔、インドにインドラブーティという強大な王がいました。王は王子が生まれないことに頭を悩ませていましたが、ある日、何でも望みが叶うといわれる如意宝珠のことを知ります。王は如意宝珠を求め、大海へ航海に出ました。
波乱万丈の旅…という訳でもなく、特に何事もなく無事に如意宝珠を得た王。そんな王たちが帰路の途中に乳海を渡っていると、蓮華の花の上に一人の美しい少年が座っていました。その姿を見た王は少年に「王子となってほしい」と懇願し、なんと国に連れて帰ります。そして、如意宝珠によって王座に天から宝が降ってきて、盛大に祝典をあげたのでした。この王子となった少年が、後のパドマサンバヴァです。パドマサンバヴァの「パドマ」とは「蓮華の花」を、「サンバヴァ」とは「生まれた地」を意味します。(「王子がほしい」という王の願いは、「パドマサンバヴァを連れて帰る」という形で如意宝珠によって叶えられたということですね。)
王子であるパドマサンバヴァは妻を迎え幸せに暮らしていましたが、あるとき虚空に金剛薩埵(ヴァジュラサットヴァ、チベット密教においては最高位の如来の一人)が現れ、王位を捨てることを勧めました。彼はお告げに従って王位を捨てて出家し、その後さまざまな修行を積み、密教の力を得て大行者となったのでした。
※金剛薩埵は、中期密教においては大日如来の教えを受けた菩薩とされ、期密教においては、法身普賢(普賢王如来)、持金剛とともに、「宇宙のはじまりとなった仏」である「本初仏(原初仏)」の一人へと昇格した仏様です。
密教をチベットへ伝えた開祖
そのころ、チベットのティソン・デツェン王はインドから顕教僧のシャーンタラクシタを招聘し、本格的な大僧院サムイェ寺を建立しようとしていました。
しかし、昼間に行った作業は夜になるとチベットの土着の神々によってすべて元に戻されてしまい、工事は一向に進展しませんでした。シャーンタラクシタは、チベットの神々を鎮めるためには密教の力が必要だ説き、ティソン・デツェン王にパドマサンバヴァを招請することを勧めました。王は助言に従い、パドマサンバヴァに招聘の使者を派遣します。
パドマサンバヴァは要請を受諾し、神通力によってチベットに飛来。しかも道中、チベットの神々や悪鬼悪霊たちを次々と密教の力によって調伏し、仏教の守護神に変えていったのでした。
チベットに到着したパドマサンバヴァは、無事にサムイェ寺を落慶し、密教の教えを説きながら流布していきました。しかし、チベットの土着宗教であるボン教を信仰する臣下は抵抗しました。また、パドマサンバヴァより前にインドから招かれた学者たちも「1つの教えに2人の師はなく、1つの王土に2人の王はいない」などと述べ、パドマサンバヴァに対抗したのでした。
このような出来事を受け、パドマサンバヴァは「チベットはいまだ、自身が有するすべての密教の教えを理解できるほど開化していない」と悟り、教えの多くを経典としてチベットの各地に埋蔵しました。そして未来、自分の教えを引き継ぐ者たちがこの埋蔵経典を発掘し、密教の教えを広めるだろうと予言したのでした。この埋蔵した経典が、チベット密教において「テルマ」 と呼ばれる「埋蔵聖」です。そして、後にこの埋蔵経典を発掘して奉じた宗派が、新訳の密教経典を信仰の中心に据えた人々と比較され、「ニンマ派(古派、古典派)」と呼ばれるようになったのでした。
なお、パドマサンバヴァはチベットから西南の羅刹の国にわたり、現在も銅色山において法を説き続けているといわれています。
パドマサンバヴァのマントラ
なお、パドマサンバヴァのマントラ(真言)は下記のようになります。
ཨོཾ་ཨཱཿ་ཧཱུྃ་བཛྲ་གུརུ་པདྨ་སིདྡྷི་ཧཱུྃ།
Om āḥ hūṃ vajra guru padma siddhi hūṃ
「オン・マ・ホン・ベンザ・グル・ペマ・シディ・ホン」
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パドマサンバヴァ八変化「グル・ツェンゲ」
「パドマサンバヴァ(グル・リンポチェ)がチベットに密教をもたらした際、道中で土着の神々を調伏させるために8つの姿に変化した」という伝説が残されています。このパドマサンバヴァの八つの姿の変化を「グル・ツェンゲ」と呼びます。
そして、このパドマサンバヴァ八変化を表現したお祭りとして知られるのが、インドのラダックに位置するへミス僧院で行われる「へミス・ツェチュ」です。
パドマサンバヴァの生涯には12の重大な出来事が起きたといわれており、それが各月の10日に起こったという伝説があります。また、パドマサンバヴァは「月の10日にツェチュ祭のあるところには必ず戻ってくる」と予言したとも伝えられています。こうしたことから、お祭りは「10日」を意味する「ツェチュ」と呼ばれるようになったそうです。ツェチュ祭はチベット密教徒にとって、パドマサンバヴァを再び目の前に拝み法要を行う一年のうちでも大切な日なのです。
Ⅰ)グル・パドマ・ヴァジュラ(ツォスケ・ドルジェ)
5/10に、蓮の花から⽣まれた際の姿です。その際にダーキニーたちに教えを施したことで、「蓮で⽣まれた⾦剛」という意味のこの名前を贈られたといいます。
チベット暦における5/10は、パドマサンバヴァ(グル・リンポチェ)の誕生日とされています。
Ⅱ)パドマサンバヴァ
10/10、チベットに到来し、すべての悪霊や⼟着の強⼒な神々・精霊を調伏し、仏法を布いた際の姿とされいます。
Ⅲ)ローダン・チョクシ
2/10に出家したときの姿とされます。⾚い顔に顎髭を⽣やしたお⾯をかぶり、⼩さなダマルと⾹壺を持ちます。
Ⅳ)グル・パドマ・ギャルポ
12/10、王妃と結婚したときの姿です。「蓮の王」という意味のこの別名「グル・パドマ・ギャルポ」も、その結婚の際に与えられたといいます。
Ⅴ)グル・ニマ・オゼル
8/10、異端者から毒を盛られたパドマサンバヴァでしたが、毒を蜜に変え、それによってさらに輝かしい存在になったといいます。
この出来事から、パドマサンバヴァは「太陽の光」を意味する名「グル・ニマ・オゼル」を贈られました。その姿は、左⼿に太陽を、右⼿に三⼜の武器を持ちます。
Ⅵ)グル・シャキャ・センゲ
9/10に、ヨーガの教えを授けられたことで神々のビジョンを⾒、数多の奇跡的な⼒を得た際の姿です。
「グル・シャキャ・センゲ」という別名は、「釈迦の獅⼦」という意味をもちます。
Ⅶ)グル・センゲ・ダドク
5/10に南インドの異端者から仏法を守った際の姿です。
名前の「グル・センゲ・ダドク」は「吼える獅⼦」を意味し、チベット密教では怒りを表現する青色で激怒した顔をしています。
Ⅷ)グル・トルジェ・トロド
11/10、パドマサンバヴァはマハームドラ(大印契)の悟りを得て、怒りの神の姿となってチベットとブータンのすべての霊を⽀配しました。悪魔や悪霊は掃討され、パドマサンバヴァは未来の⼈々のために数々の経典を秘匿し、「経典の教えが未来に⼈々を守護するだろう」と予⾔を残しました。
これ以降、パドマサンバヴァはこの「グル・トルジェ・トロド」という別名で呼ばれるようになったといいます。
※「マハームドラー(Mahamudra、大印契)」という言葉は、サンスクリット語で「偉大な封印」を意味します。国や時代によってその意味合いが異なりますが、チベット密教においては、洗練された高度な瞑想のシステム・方法のことをいい、場合によってはその瞑想によって得られる悟りを指す場合もあります。
パドマサンバヴァについて まとめ
ということで今回は、「チベット密教の祖」と呼ばれるパドマサンバヴァについてご紹介してきました。
今なおチベット密教の信仰が根付く地元チベットやネパール、インドのラダックやシッキム、ブータンなどへ旅行すると、観光の際にほぼ間違いなく聞く名前かと思います。この記事の内容を知っておくと、さらに僧院や寺院、宮殿跡への観光がもっと面白くなるはずです!
もし今回のパドマサンバヴァについて「なんか面白いなぁ〜」と感じたのであれば、ぜひチベット密教や密教そのものの歴史や宗派の種類なども知ってみてください。きっと”仏教らしくない仏教”である密教の世界に、さらにのめり込めること間違いなしですよ!
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